準自己破産とは?|取締役が逃げた・音信不通の時の法人破産
会社が破産を申立てるには、基本的には会社の取締役会による決議が必要です。
しかし、代表取締役と連絡が取れない場合や意見が割れて取締役会で賛成決議が成立しない場合などには、他の取締役が単独でも会社の破産を申立てることができます。
これが「準自己破産」という手続きです。
準自己破産は、通常の法人破産や自己破産とどのような違いがあるのでしょうか。
また、どのようなケースで準自己破産をすることになるのでしょうか。
以下、会社が破産を申立てるときの「準自己破産」の手続きについて、説明します。
1 準自己破産とはどんな手続きか
⑴ 会社が破産するための条件
会社が破産するためには、「取締役会決議」によって議決する必要があります。
破産するかどうかは会社にとって極めて重要な事項であるため、原則として取締役会の決議なしには行えないようになっています。
取締役会がない会社の場合には、過半数の取締役による同意が必要です。
会社が破産(自己破産)をするときには、原則として代表取締役の名義で申立てを行い、破産の決議をした「取締役会議事録」や、過半数の取締役による「同意書」を添付しなければなりません。
ところが、実際には取締役会を開催すること自体が難しいケースもあります。
取締役が連絡を絶ってしまっていることや、決議を開いても反対する者が多く可決できないこともあるためです。
このような場合、他の取締役を探したり説得したりしなければ破産できない、というのは不合理です。
このような事態に備えて、破産法では「準自己破産」という制度を認めています。
準自己破産では、取締役が単独でも会社の破産を申立てることができます。
代表取締役と連絡が取れなくなっているケースや、他の取締役が反対しているケースにおいても、会社の破産を申立てることが可能です。
⑵ 準自己破産を誰が申し立てられるのは誰か
破産をするときには「誰が申立てをするのか」が問題となります。
破産法においては、基本的に「自己破産」と「債権者破産」の方法が認められています。
「自己破産」は、破産者本人が自ら申立てる破産の方法です。
これに対し「債権者破産」は、債権者(お金を貸した側等)が申立てる破産の方法です。
会社側が破産をしたいときには、法人が自己破産をする必要があります。
準自己破産では、以下に示すように、会社や法人の理事、取締役などが申立人となって会社の破産を申立てることになります。
・一般社団法人または一般財団法人の場合には理事
・株式会社または相互会社の場合には、取締役
・合名会社、合資会社または合同会社の場合には、業務を執行する社員
以上が、準自己破産の申立権者=準債務者となります。
一般社団法人などの場合には法人の理事、株式会社などの場合には取締役が準債務者となります。
債務者は破産する本人ですが、準債務者は、債務者に準ずるものとして本人の破産を申立てるので、準債務者と呼ばれます。
ただし、準債務者はあくまでも「会社」についての破産を申立てるだけの立場ですから、自分が破産するわけではありません。
(取締役個人が会社の準自己破産を申立てたとしても、その取締役自身の借金や財産が清算されるわけではありません。)
【準自己破産が認められた背景】
破産法に準自己破産の手続が認められているのは、過去の商法(現在の会社法)の規定に関係があります。
今は取締役が1名でも会社を設立できますが、かつては取締役が3人以上いないと会社を設立できませんでした。
そこで、人数集めのために、関係の薄い人を形式的に取締役にすることがありました。
ところが、そのような人は、事実上まったく経営に関与しませんので、会社経営が立ち行かなくなったときに、連絡を取ろうとしても取れないということが多く発生しました。
その状態では取締役会を開催することができず、いつまで経っても会社が自己破産することができません。
そこで、会社に残った取締役が単独でも会社の破産を申立てることができるように、準自己破産の手続が認められたのです。
2 準自己破産するべきケースについて
⑴ 準自己破産をおすすめする事例
準自己破産をすべきケースは、以下のような場合です。
・代表取締役が音信不通になった
・他の取締役と連絡が取れない
・他の取締役に同意書の作成を求めたが、断られた
・他の取締役が、破産申立てに反対している
・代表取締役が死亡してしまった
・債権者からの取り立てが来て困っているのに、会社の意思決定を待っているといつまでも手続きができない
上記のようなケースでは、取締役一人であっても、会社の破産手続きを進めていくことができます。
⑵ 準自己破産をするときの注意点
準自己破産を申立てる際、1点注意すべきことがあります。
それは、通常の自己破産をすることが可能であれば、できるだけ通常の自己破産をした方がよい、ということです。
たしかに、他の取締役らと連絡が取れない場合や行方不明の場合などには、1人の取締役が準自己破産申立をせざるを得ません。
もっとも、先走って準自己破産申立てをしてしまうと、あとでそのことを知った他の取締役との間でトラブルになってしまうことも考えられます。
そのため、ある程度労力を費やせば同意書を集めることが可能である場合には、同意書を集めて通常の方法で破産をする方がよいと言えます。
また、他の取締役に連絡をする手段があるのであれば、相手が応答をしないとしても、準自己破産を申立てる前に、「破産申立てを行う」という一報を入れておく方がよいでしょう。
3 準自己破産と通常の破産手続の違い
会社の準自己破産と通常の自己破産(法人破産)には、どのような違いがあるのでしょうか。
まず、大まかな手続きの流れや、破産による効果については、特段の違いはないと考えてよいです。
準自己破産の場合にも、破産手続きが終了したら会社は清算されて消滅します。
⑴ 準自己破産と通常の破産の違い
申立時において、①誰の署名押印が必要か、②誰が裁判所や管財人による聞き取り調査の対象になるか、という2点が異なります。
通常の自己破産の場合には、会社の代表取締役の印鑑が必要であり、過半数の取締役による同意書か、取締役会議事録の添付が必要とされます。
これに対し、準自己破産の場合には、申立てる取締役1名による署名押印で足りますし、添付資料は、取締役であることの証明書のみとなります(法人の商業登記簿謄本など)。
⑵ 裁判所や管財人に関する違い
また、会社が通常の破産をする場合、裁判所や管財人は代表取締役から事情聴取をしますが、準自己破産の場合には申立てた取締役個人から必要な事情を聴取することになります。
さらに、裁判所の運用にもよりますが、準自己破産申立てをする場合、管財予納金が通常の自己破産よりも高額になることがあると言われています。
準自己破産の場合、通常の会社の意思決定ができない何らかの事情があることが推測され、管財業務がスムーズに進みにくい可能性があるからです。
ただし、準自己破産にしても通常の破産にしても、破産の費用については、会社の財産から支出することが認められています。
準自己破産であっても、申立てる取締役個人が会社の破産費用を負担する必要はありません。
4 準自己破産手続の流れ
準自己破産の手続きは、以下のような流れとなります。
⑴ 弁護士に依頼する
会社の破産は、個人のケース以上に複雑ですし、検討しなければならないことも多岐に渡ります。
収集すべき資料が多いだけではなく、債権者や従業員との関係を調整する必要などもありますし、資産調査もしなければなりません。
さらに、準自己破産の場合、申立人は取締役の1人ですので、自分で準備を進めることは非常に困難であると考えられます。
準自己破産においては、弁護士によるサポートが必須であると考えられます。
まずは、法人の債務整理を得意とする弁護士に相談をしましょう。
⑵ 資料を集める、各種の調査、準備をする
弁護士に相談をして、準自己破産の手続きを依頼した場合、弁護士は債権者らに対して受任通知を発送します。
その後は、弁護士が債権者らとの間で連絡を取り合うことになります。
注意すべきことは、会社破産の場合、個人とは異なり弁護士が受任通知を送っても、完全に債権者からの督促や取り立てが止まるとは限らない点です。
また、場合によっては、債権者に対する受任通知を発送しないケースもあります。
会社破産の場合、秘密で手続きをすすめるべきケースがあるからです(「密行型」と呼ばれることがあります)。
さらに、破産を申立てるためには、さまざまな準備が必要です。
経理の状態の確認、資料の整理、収集、従業員の解雇や退職の処理、事務所の物件の明け渡しなどをしなければなりませんし、売掛金も、できるだけ回収しておくべきです。
⑶ 破産申立と破産審尋
必要な準備を整えたら、破産申立書を作成し、資料を揃えて裁判所に破産申立てを行います。
その後、裁判所において「破産審尋」が行われます。
破産審尋とは、裁判官が債務者や準債務者に対して質問を行い、破産手続きを開始すべきかどうかを判断するための手続きです。
裁判所の運用によっては、裁判官と債務者だけではなく、破産管財人候補を交えて三者で面談をすることもあります。
⑷ 破産手続開始決定
破産申立てをして破産審尋を終えると、裁判所が「破産手続開始決定」をします。
これにより正式に、破産の手続きが開始されます。
また、破産手続開始決定と同時に、破産管財人が選任されます。
破産管財人とは、破産者の財産を換価して債権者に配当を行う役割を持つ人です。
通常は、裁判所管内の弁護士の中から選ばれます。
⑸ 管財人と面談する
破産手続開始決定がなされ、破産管財人が選任されたら、速やかに破産管財人と面談を行います。
準自己破産の場合には、申立をした準債務者(取締役など)が、管財人の事務所等で面談をすることになります。
破産管財人との面談時には、代理人弁護士も出席するので、準債務者、代理人弁護士、破産管財人の3者で話をすることになります。
このとき、破産管財人からは、事前に渡しておいた資料にもとづいて、気になる点や不明な点などを中心に質問されます。
分かる範囲で、真摯かつ正確に回答しましょう。
⑹ 管財人による財産の換価
破産管財人との面談が終了したら、管財人によって、会社財産の調査や財産の保全手続が行われます。
そして、明け渡し未了の賃貸借物件の明け渡しや、雇用関係が継続している従業員の解雇、未回収の売掛金回収などの諸手続きや、その他の資産の換価を進めます。
⑺ 債権者集会、財産状況報告集会が開かれる
破産手続開始決定後2~3ヶ月程度で、第1回目の債権者集会、財産状況報告集会が開かれます。
このときには、裁判官、破産管財人、債務者(準債務者)、申立代理人弁護士、債権者が出席して、破産管財人により、財産の換価状況の説明などが行われます。
債権者の出席は必須ではないので、実際には来ないこともあります。逆に、個人の債権者などがいる場合には、債権者が出席して紛糾する可能性もないとはいえません。
1回目の債権者集会までに換価と配当が済んでいないときには、2回目以降に集会期日が続行されます。
その後は、だいたい月1回程度、債権者集会と財産状況報告集会が開かれます。
その間も、破産管財人は換価業務を進めていきます。
⑻ 管財業務の終了
破産管財人による換価業務がすべて終了したら、管財人は裁判所に報告をして、配当を実施します。
換価した財産が配当に足りない場合には、破産手続は異時廃止によって終了します。
⑼ 手続の廃止、終了
以上のように、配当が行われない場合には、そのまま異時廃止となりますし、配当が行われる場合には、配当が終了したのち、破産手続が終了します。
その後、裁判所の書記官が破産した法人について、「破産手続終結」の登記をします。
この登記をもって、会社は消滅することになります。
会社の破産の場合、個人破産のような「免責」はありません。
免責とは、「債務の弁済の免除」のことですから、免責を受けるということは、存続していくことが前提になるためです。
会社破産では会社は消滅するので、免責を許可する必要がありません。
5 まとめ
株式会社などの法人が多額の負債を負って支払い不能状態になってしまったら、破産手続きによって会社を清算する必要があります。
しかし、さまざまな理由で「取締役会決議」ができないケースもあり、その場合には会社の理事や取締役個人などによる「準自己破産」という手続きが認められています。
会社自身が動くためには取締役会における意思決定が必要ですが、「いよいよ会社が破産しよう」というときには、会社の意思決定機関が機能していないこともあります。
そのようなときは準自己破産を検討する必要がありますが、取締役一人で手続を進めるのは困難を極めます。
当法人には、会社の倒産に関する事件を集中的に取り扱う弁護士が在籍し、多くの解決実績があります。
会社の現状に沿った最適な解決方法を検討することができますので、会社の破産についてお悩みの方は、まずは当法人にご相談いただければと思います。